ハリウッド式の三幕構成とは

ストーリーの構成、プロットとは

シナリオは書き始める事は簡単ですが、上手く結ぶ事は難しいものです。しかし行き当たりばったりではなく事前に計画を立てておけば、それに沿って作業を行えるため失敗のリスクは軽減出来ます。

あらかじめ始まりから終わりまで大まかに決めておく事で、袋小路に迷い込むことなくスムーズに作業を行える様にする、それが構成です。

物語の構成に関しては、世界の神話分析を元にした構成法「『神話の法則』の三幕構成」も参考にして下さい。

三幕構成(スリーアクトストラクチャー)

ストーリーを作成する上でまず知っておかなければならないのが、「シナリオのパラダイム(上図)」です。パラダイムとは「模範」「範例」という意味であり、ストーリー作成におけるお手本の事です。

ここではハリウッド映画で使われている「三幕構成(スリーアクトストラクチャー)」を紹介します。

これはシナリオを3つに分解して考えるやり方で、それぞれ「発端」「中盤」「結末」を担当します。そして第一、第二幕にはプロットポイントと呼ばれるストーリーの転換点が設けられます。これらを具体的に解説していきましょう。

映画脚本の世界では四百字詰め原稿用紙一枚が1分を表します、つまり2時間映画の場合原稿用紙120枚で完成となります。日本の映画業界では200字詰め原稿用紙(通称ペラ)が使われる事が多いようです。

漫画原作のコンテストなどでは400字詰め原稿用紙でというものが多く、同じ様に一枚1Pで30Pの読み切り作品の場合必要となる原稿用紙は30枚となります。漫画業界はネームやラフなどが多い様です。

ハリウッドの脚本術によれば、全体のページ数を120Pとした場合、第一幕は約20~30P、第二幕は約60P、第三幕は約20~30Pとなっており、割合にすると1:2:1です。面白い事に既存の漫画を分析してみると、人気作品の多くが同じ様な比率になっている事に気付きました。皆さんも一度好きな作品を幕毎にページ数を数えてみて下さい。多くの作品が同じ様な構成になっている事が分かるはずです。

第一幕「発端」と「状況設定」

第一幕は発端であり状況設定を行う幕です、つまり読者にストーリーの始まり、登場人物の紹介、世界観などを理解してもらう部分です。

パラダイム図で言うと、ここが全体の25%を占めます。

ツカミ

冒頭で何かの事件を発生(もしくは発生している)させ、読者を漫画に引き込みます。

状況説明

物語を読むのに必要な情報の提供を行います。基本的にナレーションの様な動きのないやり方はアウトだと思います。

動機付け

なぜ主人公がその目的を達成しなければならないのか、という動機付けを行います。

第二幕「中盤」と「葛藤」

第二幕は葛藤を表現するパートです。葛藤とは対立であり、それは他人や現象などの物理的なものから、内面から来る精神的なものがあります。第二幕では達成しなければならない目標に突き進む主人公に、次から次へと障害を放り込み、それを乗り越えていく姿を描き出します。

パラダイム図で言うと全体の50%を占めます。

サブプロット

物語の本筋をメインプロットと言い、サブプロットはその中に挿入していく小さく短期的なストーリーです。サブプロットは物語に厚みや幅をつける目的で使われ、これにも発端、中盤、解決があります。

サブプロットは必ずメインプロットから派生した話でなくてはならず、全く無関係な話は読者を混乱させてしまいます。

サブプロットは物語の状況説明以後から、クライマックス前までに展開します。一話完結の漫画の場合、ページ数が限られているためあまり意識しなくても良いかも知れません。

仲間割れから和解する(人間の絆という要素の補強)、仲間内での恋愛(恋愛要素の補強)、主人公の挫折そして克服(人間の成長という要素の補強)などがあります。

中間点

物語全体の中間点です。読者もダレてくる頃なので、ここで物語を大きく転回させ、物語の勢いを持続させます。

今までは魔王を倒すための情報やアイテムの収集をしていて、ここからいよいよ魔王城に入城したり、奇怪な出来事ばかり起こっていたが、ようやくおぼろげながら事件の概要が把握されたり等です。

第三幕「結末」と「解決」

様々な問題が収束していき、最後のエンディングに到達します。主人公に課せられた問題を解決するため、最大の難関をクリアする姿が描かれます。

ここもオープニングと同じ25%を占めます。

ピンチ

クライマックス一歩手前位の所で主人公をピンチにします。読者は窮地に陥った主人公を応援し、逆転を望みます。

クライマックス

メインプロットの目標を解決します。ピンチからの逆転が基本で、何か突破口を見付け解決します。

完全解決

目標達成後の残りの未解決部分の解決です。残された謎が解明されたり、捕らわれていた姫と主人公の感動の再会、失われていた何かをその手に、といった感じです。
ここで物語は終了となります。

プロットポイント

物語は三つの幕で構成されるという話をしました。ではこれら三つの幕をどの様に繋げれば良いのでしょうか。それはプロットポイントと呼ばれる物語の転換点を設ける事です。

パラダイム図を見て分かる様にプロットポイントは第一、第二幕の最後に置かれます。大抵プロットポイントは何か大きな事件であり、物語の流れを一気に変える何か(事件、出来事)です。

事件とは

物語で起こす価値のある事件とは「自分や自分の大切な人に起きて欲しくない事」です。私達はそういった事が起きる漫画や映画をお金を払って見ています。実生活で皆そういう事が起きないように生きていますが、物語ではその逆を行く事が大事なのです。

事件が起きる時は前触れがある事がほとんどです。前触れは読者に期待感を持たせるからです。しかし実際は前触れが示唆する通りの事件は発生しません、面白くないからです。

読者にあれが起きるだろうと期待させておいて実際は違う事が起きる、これが物語的には正しい事件の姿です。

シーン

幕の中に詰め込まれるのがシーン(場面)です。シーンに必要な事が以下です。

  • 5W1H
  • ストーリーを前進させる
  • 情報が公開される

5W1H」とは以下です。

  • Who(誰が)
  • When(何時)
  • Where(何処で)
  • What(何を)
  • Why(何故)
  • How(どうしたのか?)

漫画の場合新しい場面に変わる度に5W1Hを説明します。5W1Hを説明するために数コマを使って、以下の様な表現方法で読者に伝えています。

Who(誰?)

キャラクターです。キャラクターの絵を描けば読者に伝える事が出来ます。

When(何時?)

キャラクターがいる時間です。背景を描く時に風景の中に時計を描いたり、太陽や月の位置、空の色で読者に伝える事が出来ます。また、キャラクターに時計を見せたりする事でも伝える事が出来ます。

Where(何処?)

キャラクターが居る場所です。背景に風景を描く事で、読者に伝える事が出来ます。また、看板や銅像などその場所を象徴する物を描く事でも伝える事が出来ます。

What(何を?)

キャラクターが何をしたいかという目的です。キャラクターのセリフや行動で、読者に伝える事が出来ます。

Why(何故?)

キャラクターが目的を行う理由です。キャラクターのセリフや行動で、読者に伝える事が出来ます。

How(どうしたのか?)

キャラクターの行動の結果や結論です。キャラクターのセリフや行動で、読者に伝える事が出来ます。また、ナレーションという説明文でも伝える事が出来ます。

シークエンスと必要な数

シーンに似た言葉に「シークエンス(節)」があります。シーンは場所で区切りますが(だから5W1Hが必要)、シークエンスは関連するいくつかのシーンのまとまりを表します。ちなみに最小単位はショットと言い、これは漫画の一コマに当たります。

おとぎ話桃太郎の第一幕は、おばあさんが桃を拾ってきて桃太郎が誕生し、鬼が人間を苦しめている事を知り鬼退治に旅立つまでになります。ここでは以下の様な出来事が起きています。

  1. 川上から桃が流れてきてお婆さんが拾う
  2. おじいさんとおばあさんが桃を割り、桃太郎誕生
  3. 愛情を受けてすくすく育つ
  4. 桃太郎、鬼の所為で人間が苦しめられている事を知り、鬼退治の旅に出る

一、二、三幕では、それぞれどれ位の出来事の数が適切なのでしょうか。映画脚本術では120枚(2時間)のシナリオで、第一幕14個、第二幕は前半後半合わせて24個、第三幕14個が基本とされています。

漫画で30Pの読み切りは400字詰め原稿用紙30枚分ですから2時間映画の25%です。では単純にそれぞれの個数を同じ比率にしてみると、第一幕3.5個、第二幕7個、第三幕3.5個となります。

これはあまりにも単純な話ですが、参考程度にはなるかも知れません。

連載物の場合

長期連載物は一編を一つの物語と捉え、一話一話はサブプロットで作っていく事になります。連載物は次回も読んで貰うために、興味を引き継がせなければなりません。つまり一話の構成は下記の繰り返しになります。

  1. 前回の終わりに提示されたサブプロットが解決する。
  2. メインプロットを少し進展させる。
  3. 次回で解決されるサブプロットの発端を終了間際に発生させる。

よくあるテクニック

ストーリーに使われる技法として代表的な物を紹介します。

語らずに見せる

必要となる情報は天の声で説明したり、説明臭いセリフで表現してはいけません、そういったものを読者は退屈、冗長、つまらないと感じるからです。大事な事は語らずに見せる事です。

事件、出来事、登場人物同士の掛け合いなどで、自然と読者の頭に入れる努力が必要であり、こうする事でシナリオのスピード感は損なわれず、読者はストレスを感じずに情報が頭に入っていきます。

伏線

伏線は後のストーリー展開に備え、事前にほのめかす事を指します。例えば序盤でペンダントを貰うシーンがあり、終盤拳銃で心臓を撃たれます。主人公は死亡したと思われましたが生きていました。主人公はそっと胸ポケットから弾丸がめり込んだペンダントを見せる、という様なものです。

伏線を張る場合一度シナリオを完成させた後が良いでしょう。完成後にシナリオを読み返してみると、伏線を張った方が良いと思われる箇所がいくつか見付かるからです。

謎を提示

謎は物語中(特に序盤が大切)にその時には意味不明な、不可思議な現象や人物などを提示します。読者に作品を読み続けて貰うには疑問を提示する必要があります、その疑問を解消したいとページを繰るからです。

例えば物語冒頭、謎の人物が主人公に現れ何か予言をし消えてしまう。その後その予言通りに進んで主人公は驚き、物語の端々でその謎の人物がまた現れる、といった展開です。読者はこの人物の正体は誰なのか?という事が気になり、読み続けてくれるという分けです。

示唆する

示唆するとは物語中で、後々起こると思われる出来事を想像させる場面を見せる事であり、それは奇跡的、感動的、不吉な事だったりします。

例えばファンタジー物の主人公が森を歩いていて、何者かの目がギロリと光るシーンを挿入したとします。それを見た読者は当然「主人公に魔の手が迫っている」と思うでしょう。そしてその後実際に主人公は隠れていた敵に襲われるという寸法です。こうする事でただ主人公が森の中を歩いているという平凡なシーンに緊張感を与える事が出来ます。これはシナリオ上展開が平坦で面白味に欠ける場面で使うと良いと思います。

あえて示唆した出来事を起こさないと手法もあります。先ほどの例だと、怪しい目が光り段々と主人公に近づいて行く、そして遂に主人公の体にその手が掛かった、それは!!…、町で置いてきたはずのヒロインで、主人公が心配で後をつけてきたというオチです。こういうのもアリでしょう。

さらにやっぱり本当でしたというオチもあります。また上の例を使うと、主人公を追って来たのは心配して付いてきたおせっかいなヒロインだった。緊張して振り向いた主人公は安堵のため息を吐いた、…とその時!後ろから突然後頭部を殴りつけられ倒れ込む主人公、そこに立っていたのは待ち伏せしていた魔王の一味だった。ヒロインの悲鳴が森中に響き渡り、魔物達は真っ赤にギラついた目を見開き一斉に襲い掛かってきた!という具合です。