三幕構成と12のステージ
『神話の法則』は、神話学者ジョセフ・キャンベルの『千の顔をもつ英雄〔新訳版〕上』の神話研究を元に、著者クリストファー・ボグラーが、神話の構造を映画脚本に応用し体系化させた内容を記した本です(『千の顔を持つ英雄』は、ジョージ・ルーカスがスターウォーズの手本にした事で有名な本です)。
こちらも脚本術の世界ではバイブルとされており、ここでは『神話の法則』における三幕構成を解説します。
この野球のダイヤモンドのような図が物語のパラダイムです。長さはは1:2:1となっており、シド・フィールドと同じであり、第一幕、第二幕の終わりに次の幕へ行くためのイベント(プロットポイント)が必要というのも同じです。
『神話の法則』では、この三幕をさらに細かく12のステージに分類しています。
これが、クリストファー・ボグラーの示した三幕構成です。基本は変わりませんが、シド・フィールドが示した構成と比べて、より詳細に表現されているのが分かると思います。
ボグラーは、ストーリーの基本構造は三幕構成とそれに内包される12ステージで構成されており、ヒーローがこれらステージを全て乗り越えてストーリーは完成すると説きます。
キャラクターにおける7つのアーキタイプ
アーキタイプ(元型)は、どの神話やおとぎ話にも共通して登場する、7つのキャラクター達の事です。
英雄(ヒーロー)
主人公であり、冒険を通して人間の成長を見せる存在です。偉業の達成には犠牲が伴い、ストーリーの中で英雄は色々な犠牲を払っていき、最終的に物事を成します。
ヒーローには外的な問題と内的な問題の両方を与え、バックストーリー(暗い過去の様なもの)を設定します。
読者は英雄に感情移入し、英雄が体験した冒険と成長を同じように体験します。そのため、普遍的で誰もが一度は経験した事のある復讐、怒り、性欲、競争、理想主義、皮肉、絶望といった感情をヒーローには持たせるべきで、同時に欠点もあった方がより読者の興味と共感を呼ぶでしょう。
ボグラーは、英雄は最も活発な行動を取るべき人物であり、シナリオでよく見る欠点は英雄が必要以上に受け身である事だと言っています。
一般的な英雄以外にカタリスト・ヒーローというタイプもあります。これは変化しない英雄で、英雄が最も変化するキャラクターという一般的なルールには当てはまりません。
カタリスト・ヒーローは自分ではなく周囲のキャラクターの変化を起こします。そのため英雄自身は当初からほぼ完成しており、ある種、賢者(メンター)に近いとも考えられます。水戸黄門などはその代表格でしょう。
賢者(メンター)
賢者は英雄を教育し、守護し、何か価値ある贈り物を与え、正しい方向へ導くキャラクターです。
基本は価値のある贈り物をする事であり、それは魔法のアイテム、知恵、重要なヒントだったりします。単純に贈るわけではなく、何かしらのテストに英雄が合格した時に贈るという展開が一般的です。
門番(シュレスホールド・ガーディアン)
冒険には障害が付きものであり、新しい世界への入り口に立つ障害が門番です。英雄は門番を倒したり、避けて通ったり、仲間にしたりします。
門番は生き物とは限らず、自然現象、精神的な葛藤であったりもします。
使者(ヘラルド)
使者は英雄に重要な知らせ、変化の予兆を伝えるキャラクターです。使者は英雄に動機を与え、挑戦状を届け、変化が訪れた事を警告し、ストーリーを前へと進めます。
使者はほとんどどの物語にも必要になるとボグラーは説いています。
変化する者(シェイプシフター)
変化する者はつかみ所のないコロコロと変化するキャラクターです。それは姿、容貌、心変わり、気まぐれであったりします。大抵は英雄にとっての異性になるとボグラーは言います。
「彼の言っている事は本当なのか?」「彼女は本当は敵なのかもしれない」、英雄を助けたと思ったら、今度は危険に導いてみたり、そうしてかき乱す事で物語に誘惑やサスペンスをもたらすのが変化する者の役割です。
神話の世界では魔法使いや魔女がその代表であり、漫画だと峰不二子辺りが典型的な変化する者でしょう。
影/悪者(シャドウ)
影/悪者はそのままの意味で、英雄を死、破滅、敗北に追い込むキャラクターです。門番は軽い障害程度のものですが、影/悪者は英雄の命をも奪うほどの敵であり、怪物、魔王、悪魔、邪悪な宇宙人などです。
影/悪者は英雄を徹底的に追い詰め、絶体絶命にし、最後の大逆転を誘発させます。これにより英雄も物語も魅力的になるのです。
いたずら者(トリックスター)
いたずら者はストーリーの調整役であり、英雄の自惚れを戒め、笑いで楽しませ、いたずらが原因の事故、不謹慎な言動によってシリアスになりすぎている展開を調整する。
ストーリーには葛藤やサスペンスが必要ですが、それらは読者を疲弊させます。いたずら者はその行動で読者に息抜きをさせます。こういった息抜きをコミック・リリーフ(喜劇的な息抜き場面)と言います。
12ステージの解説
ステージ01:日常の世界
ほとんどのストーリーは主人公を”日常の世界”から”特別な世界”へと連れ出します。ステージ01は、これから主人公が行く”特別な世界”とのコントラストを生み出すための、”日常の世界”を表現するステージです。
ステージ02:冒険への誘い
主人公が冒険へと誘われるステージであり、人、事件など誘う”使者”は様々です。”使者”がそのまま”賢者”になる事もあります。
ステージ03:冒険への拒絶
主人公が冒険に対し恐怖から拒絶を見せるステージです。危険に対する恐怖、変化に対する恐怖などにより主人公は冒険に対し気乗りせず、二の足を踏み冒険を拒絶します。
しかし、結局は退っ引きならぬ事情が発生し、冒険へ出発せざるを得なくなります。
ステージ04:賢者との出会い
主人公を導く賢者(メンター)を紹介するステージです。賢者の役割は、主人公に見知らぬ世界と直面するための準備をさせる事であり、賢者は案内や手引き、アドバイス、魔法のアイテムなどの手助けとなる道しるべを主人公に提供します。
賢者は主人公とは一時的にしか行動を共にせず、いずれ主人公は一人で見知らぬ世界と向き合う事になります。
ステージ05:第一関門突破
主人公が第一関門を突破する事で遂に冒険に足を踏み入れ、”特別な世界”に舞台が移り本格的にストーリーが始まります。ここが第一幕のターニングポイントに当たります。
“特別な世界”の入り口には関門があり、その関門には妨害する何かがある。それを乗り越えて主人公は”特別な世界”へ入って行く。この辺りから主人公は冒険に前向きになり、もう逃げられないと、課せられた使命を達成しようと覚悟を決めます。
ステージ6:試練、仲間、敵対者
冒険の旅を始めた主人公の前に、試練や仲間、敵といったキャラクター達が現れます。主人公は、連続して起こる試練を切り抜けなければなりません。
試練や人との出会いによって、主人公にこの世界のルールを学ばせるステージであり、ルールを学ばせるため、”特別な世界”の縮図のような場所が舞台が登場させます。昔の映画では酒場が最も利用されました。
ステージ07:最も危険な場所への接近
主人公が探し求めていた存在がある、最も危険で今までとは違う神秘的な場所(洞窟、深い迷宮、魔王の城)の入り口に到着し、危険へアプローチするステージです。
ここでは主人公が計画の立案、入念な準備をし、強健な門番や罠といった降りかかる様々な障害を潜り抜けて行きます。
ステージ08:最大の試練
物語真ん中に来る山場の一つです。場合によっては第二幕の最後、第三幕の最初にずれ込む事もあります。最も危険な場所の最深部であり、最強の敵”影/悪役”と対峙しています。
主人公の生死が不明になったり、死の危険に晒されたり、目的が失敗したかに見える瞬間が訪れ、その最大の危機を序盤で”賢者”から受け取ったアイテムを使い回避します。読者は主人公と共に死の淵からの生還、大逆転を見る事で興奮を感じます。いわゆるカタルシス(抑圧からの解放)です。
ボグラーは「復活」が最大のクライマックスであり、こちらはクライシスとも呼べると言っています。ボスである”影/悪役”は痛めつけられはするものの、そこではやられず、後々クライマックスである「復活」で再登場するパターンが多いようです。
ステージ09:報酬
危険を乗り越え、見事、最大の試練を乗り越えた主人公に報酬が与えられます。それは冒険の目的であった何か(人、物、奇蹟)を手に入れるという事であり、「復活」を控えた束の間の勝利でもあります。
作品によってはここでラブシーンが入ったりもします。
ステージ10:帰路
主人公はまだ完全に危機から脱しておらず、手に入れた報酬を持ち変える過程でまた危機がやってきます。
それは、「最大の試練」で逃げられ体勢を立て直した”影/悪役”の追跡、報復、反撃だったり、敵の残党の復讐、壊れゆく建物であったりします。そういった最後の難関からの主人公の脱出を描くのがこのステージです。
多いのが追跡シーンであり、そして追跡をかわすのがマジックフライト(呪的逃走)です。これは手に入れた魔法のアイテムを使い追跡をかわすというもので、日本の昔話「三枚のお札」がいい例です。
ステージ11:復活
ストーリーの最大の山場、クライマックスです。”影/悪役”との最後の対決であり、成長のラストチャンスです。ここでの結果は物語全体に及ぶ重大なものであり、掛け金は最大(生死を賭けた死闘)となります。
ここも「最大の試練」と同じようにカタルシスを意識します。徹底的に主人公を追い詰め、間違い無く死ぬという所までいきながら大逆転し、読者の感情を爆発させます。”影/悪役”は滅び、主人公は勝利を手にします。
「復活」での勝利は、勝利が大きい分代償も大きく、何かを犠牲にして達成されます。それは仲間、信念、道具、自らの命であったりします。
ステージ12:宝を持って帰還
冒険によって手に入れた宝(物、経験、教訓)を”日常の世界”に持ち帰ります。
主人公がこの冒険の中で教訓を学び取ったか確かめるため、かつて主人公が失敗を犯した時と同じ状況がまた現れ、今度は正しい行動を取る事で読者に主人公の成長を理解させたりします。
かつて未熟だった主人公の人格は滅び、冒険から新たな人格を獲得する。主人公の内面的な成長は完成し、新たな人格を備えて物語は完結します。
作品によってははっきり結論を出さないものや、衝撃的などんでん返しが起こるものもあります。
主人公の成長の変遷
ボグラーは、主人公の各ステージでの成長過程を以下のように要約します。
日常の世界 | 問題の偏狭な認識 |
---|---|
冒険への誘い | 問題の認識の深化 |
冒険への拒絶 | 変化への拒否 |
賢者との出会い | 変化への躊躇 |
関門突破 | 変化への第一歩 |
試練、仲間、敵対者 | 最初の変化への挑戦 |
最も危険な場所への接近 | 大きな変化への準備 |
最大の試練 | 大きな変化への努力 |
報酬 | 努力の成果(進歩と後退) |
帰路 | 変化への再挑戦 |
復活 | 大きな変化への最後の努力 |
宝を持っての帰還 | 問題の最終的な解決 |
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[…] 物語の構成に関しては、世界の神話分析を元にした構成法「『神話の法則』の三幕構成」も参考にして下さい。 […]